嘉數中日記第327回  (平成29年6月30日) 

                   子供時代の読書の思い出

久しぶりの雨、晴耕雨読。


  〜
 今振り返って、私にとり、子供時代の読書とは何だったのでしょう。
 何よりも、それは私に楽しみを与えてくれました。そして、その後に来る、青年期の読書のための基礎を作ってくれました。
 それはある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました。この根っこと翼は、私が外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、大きな助けとなってくれました。
 読書は私に、悲しみや喜びにつき、思い巡らす機会を与えてくれました。本の中には、様様な悲しみが描かれており、私が、自分以外の人がどれほどに深くものを感じ、どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは、本を読むことによってでした。
 自分とは比較にならぬ多くの苦しみ、悲しみを経ている子供達の存在を思いますと、私は、自分の恵まれ、保護されていた子供時代に、なお悲しみはあったと言うことを控えるべきかもしれません。しかしどのような生にも悲しみはあり、一人一人の子供の涙には、それなりの重さがあります。私が自分の悲しみの中で、本の中に喜びを見出せたことは恩恵でした。本の中で人生との悲しみを知ることは、自分の人生に幾ばくかの厚みを加え、他者への思いを深めますが、本の中で過去現在の創作の源となった喜びに触れることは、読む者に生きる喜びを与え、失意の時に生きようとする希望を取り戻させ、再び飛翔する翼を整えさせます。悲しみの多いこの世を子供達が生き続けるためには、悲しみに耐える心が養われると共に、喜びを敏感に感じとる心、又、喜びに向かって伸びようとする心が養われることが大切だと思います。
 そして最後にもう一つ、本への感謝を込めてつけ加えます。読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても、国と国との関係においても。
 〜略〜
 どうかこれからも、これまでと同じく、本が子供の大切な友となり、助けとなることを信じ、子供達と本とを結ぶIBBY(1)の大切な仕事をお続け下さい。
 子供達が、自分の中に、しっかりとした根を持つために
 子供達が、喜びと想像の強い翼を持つために
 子供達が、痛みを伴う愛を知るために
 そして、子供達が人生の複雑さに耐え、それぞれに与えられた人生を受け入れて生き、やがて一人一人、私ども全てのふるさとであるこの地球で、平和の道具(2)となっていくために。
                                                  《了》
           すえもりブック出版  橋をかける 子供時代の読書の思い出   美智子
                      国際児童図書評議会 皇后様基調講演より抜粋
                      1998年9月21日 インド ニューデリー     

IBBY(1)国際児童図書評議会
平和の道具(2)アッシジのフランシスコ作といわれ、世界的に知られた『平和の祈り』の冒頭の一節、「我をして御身の  平和の道具とならしめ給え」を指す。